焼き物
焼き物の趣味は特にない。
しかし、陶芸の先生を仕事上知る機会があってアトリエに何度かお邪魔した。
陶芸教室を開きながら、アトリエの隅にカフェスペースがある。
そこに、陶器でできたスピーカーが置いてあった。
私はそちらの方に興味があったので、面白いですね、と言うと、陶器をキャビネットにするとなかなか面白い音がでるんですよね、と言っていた。
確か、ジョーダンという昔の酒瓶のような形のイギリス製スピーカーがあった。
自分でうまくフルレンジでも組み込めば、音はどうあれ所有する喜びは大きそうだ。
その教室は飯岡の海沿いにあった。
近くに、地層が露わになった海岸がある。
このあたりでは平石を石垣に積む。
その石はこのあたりの独特なものだという。
筒のようになっていて、その表面が細かい穴で覆われている石があり、その筒を聞いてみるとさらさらとかすかにノイズが鳴っている。
洗いたての水滴を纏ったコップに炭酸水を注いだようなさわさわしたノイズ。
不思議な石の筒。
あ、あの石、もしかしたらさつま芋のような形状で、すべすべしていたかもしれない。
今思い至った。
そして、その地独特の地層がある。
それを土に使った焼き物を今実験的に試していると言っていた。
試作品を見せていただいた。
ちょっとした和え物などを入れるような小鉢で、深い青、群青を少し薄くした青に螺鈿のようにちらちらと細かい、輪に似た不定形の文様がうっすらと入っている。
これがこの土の特徴らしい。
その地ならでは、とか、試作品、などといった限定性に浮かされたのか、いろいろな角度からその小鉢を手にとって眺めた。
明るみに透かしたり、真上から見てみたり、近づけたり離したり。
これ、いいですね、を連発した。できれば売ってくれないかなと思いつつ。
しかし、そんな裏を見透かしてか、売買の話には触れようとしなかった。
あれから数年経っているが、作品として、売買の対象となっているのだろうか。
いまでもたまに思い出す、あの小さくて深い青の陶器。
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