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2020年8月1日土曜日

ある部長の話

ある部長の話

 

私のかつての勤め先での部長の話。まじめで、威張るでもなく、媚びるでもなく、部下にも誠実に対応していた部長。総務部長、私も何度がやりとりしたが、好印象の紳士。
ちょっとしたごたごたがあり、解雇か自主退職かを迫られた人間がいた。そのときにかなり対応に苦労したようだ。
それとは直接関係ないだろうが、役職定年になる年に早期退職で職場を去った。
部長の趣味は料理をつくること、よく、手料理を作っては部下にごちそうしていたらしい。
そして念願の、各地の地酒を取りそろえた居酒屋を開業するに至った。
私もいつか顔を出してみようと思ったが、一年ほどで閉店した。採算がとれなかったのだろう。営業するほど赤字になった。よくある話だ。
誠実な人だったから手間も金もかけたのだろう。とにかく部長は夢を叶えた。そして夢が潰えた。
しかし、部長は共働きだったこと、どうにも何か、引っかかる。
開業にあたり緻密にシミュレーションをし、損益分岐点を明確にし、開業に踏み切ったはずだ。だからこそ撤退することも計算できた。また、妻という収入を運ぶ存在もいた。
そこに、不退転の決意を鈍らせる甘さがありはしなかったか。別に甘さがあって不思議ではないし、人の人生に難癖をつけるものでもない。
はじめから、一度、居酒屋、やってみたかったんだよねー、ぐらいの軽い気持ちだったかも知れない。
生活をしていかなければならないので、保険はかかっていて当然だ。そういう意味では、私は誰かを当てにした、いわば人的保険は、退職するに当たって考えはしなかったな、と思った。当然緻密に計算し、有る部分はどんぶり勘定で、えいやっ、でこの生活に突入した私は、私の力だけで渡世していこうと思った。
有る意味、大莫迦者だ。どちらが偉い、狡い、凄い、という話ではなく、早期退職によくある話と、自分が大莫迦者と改めて再認識したと言うのがこの話の主旨で。

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