空しさとの戦い
誰に求められるでもなく、何かをしている。楽器の練習をしたり、文章を書いたり。その隙を突いて必ず空しさが襲ってくる。そんなことをして何の役に立つのかと。役に立つ、というのがまたくせ者。麻薬のように心にこびり付いている。役に立つことをせよ。役に立つ人になれ。誰の役に立つのか、具体的には誰の。役に立たないことはやめろ。無駄だ。空しさは「そんなことをして何になる」と畳みかけてくる。何をしても「そんなことをして何になる」と。それしか言わない。そしてしつこい。常につきまとってくる。本を読んでも、調べ物をしても、何かを書いても、ほしかった物を手に入れても。そのうち「いつかは死ぬんだから」と二言目が加わる。そろそろそんな年回りだ。「そんなことをして何になる」「いつかは死ぬんだから」としつこくつきまとってくる。夢の中にも自在に入る。ふっと意識に段落がついたときに、クラッシュシンバルのように鳴り響く。仕事に打ち込んで、ようやく自由な時間を持つようになったひとには、カラスの群のようにどこからか近づいている。しばらく時間が経って、忙しさを忘れた頃に大群は口々に呼びかけてくる「そんなことをして何になる」。頭上に黒い空しさがひしめいて青空も見えない。そうなったときにどうすればいいのか。空しさと戦うしかない。文字通り、死闘を。
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